第一章:笠を編む少年
現代の雪積の里には、一人の少年が住んでいました。名は笠太(かさた)。小学五年生の彼は、冬が大好きで、雪が降ると真っ先に外に飛び出し、地蔵さまの雪をはらっては「こんにちは!」と声をかける元気な子でした。
笠太の家では、毎年大晦日に笠を編んでお地蔵さまに贈る習わしが代々受け継がれていました。それは百年前の与作とウメから続く、大切な村の伝統でした。
「ぼくも、いつか立派な笠守になりたい!」
笠太はそう言って、祖母・サエと一緒に藁から笠を編むのが大好きでした。
第二章:神社の奥の古い道
ある日、笠太は地蔵参りの帰り道、ふと神社の奥に続く誰も通らなくなった古道を見つけました。好奇心にかられて進んでいくと、雪の中に埋もれた古い鳥居と、半ば崩れかけた小さな祠(ほこら)を見つけます。
祠の中には、ひとつだけ笠をかぶった小さな石地蔵がひっそりと佇んでいました。笠太は手を合わせ、持っていた自分のニット帽をそっとその地蔵にかぶせました。
「ここにも、お地蔵さまがいたんだね。さむかったでしょう…」
その瞬間、ふわりと風が吹き、粉雪が光のように舞い上がりました。地蔵の目元が、わずかに微笑んだように見えたのです。
第三章:雪夜のまぼろし
その夜、笠太は不思議な夢を見ました。夢の中で、雪の精たちが彼を囲み、「選ばれし笠守よ」とささやきました。
「与作とウメの心を継ぐ者、いま再び試練のときが来た」
目を覚ました笠太の部屋には、どこからか届いた見たことのない古い笠がひとつ置かれていました。それは藁でできていながらも光を放つ、不思議な力を秘めた笠でした。
第四章:雪積の危機
数日後、村に寒波が訪れ、百年に一度の大雪が降り続きました。電気も止まり、道もふさがれ、村は孤立します。そんな中、各所で不思議なことが起こり始めました。
道の角々に現れた見知らぬ石像たち。まるで村を守るように雪をせき止めたり、崩れるはずの屋根を支えたりしていたのです。
笠太は直感します。「あのお地蔵さまだ!みんなが助けに来てくれてる!」
第五章:笠守の誓い
笠太は、祖母から教わった古い道具を使い、夜な夜な笠を編み始めました。ひとつ、またひとつとできあがる笠は、村中に新しく現れた石像たちの頭にぴったりでした。
「ありがとう。ぼくが守る番だよ」
そう言って笠をかぶせていくたびに、地蔵たちは静かに微笑んでいるように見えました。そして不思議なことに、吹雪は少しずつ収まり始めたのです。
終章:新しき笠守たち
春が訪れたある日、村の長老たちは笠太を「新たな笠守」として讃えました。そして、彼がかぶせた光る笠は、村の神社に「笠守のしるし」として納められることになりました。
それ以来、雪積の里では新たな伝統が生まれました。毎年、子どもたちが自分で編んだ笠を地蔵さまに捧げる「笠まつり」です。
笠太は、次なる世代へと優しさと守りの心をつなぐため、今も後輩たちに笠の編み方を教えています。
雪の降る夜、またどこかで誰かが、そっと地蔵さまに笠をかぶせているかもしれません。
(つづく)
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