小さな一歩と大きな運 ―寸一郎のふしぎな旅―

昔々、山と川にかこまれた静かな村に、「寸一郎(すんいちろう)」という小さな男の子が生まれました。指の先ほどの大きさしかない彼は、生まれつきとても元気で利口でしたが、体の小ささゆえに村人たちからは「小さいだけで、何もできまい」と笑われていました。

寸一郎は、両親の愛情を受けて育ちましたが、心の中では「いつか自分の力で大きなことを成し遂げてみせる」と強く願っていました。

ある春の日、寸一郎は両親にこう言いました。

「旅に出て、自分の力で幸せを見つけてくるよ」

両親は心配しながらも、息子の強い意志を尊重し、おにぎりひとつと針の刀、そして折り紙で作った小さな舟を持たせて送り出しました。


■ わら一本のはじまり

旅に出た寸一郎は、道端に落ちていた一本のわらを拾いました。「こんなものでも、きっと何かの役に立つはずだ」と思い、腰に結びつけて歩き始めました。

しばらく進むと、喉が渇いてうずくまっている赤トンボに出会いました。

「お願いです、そのわらをください。巣が壊れてしまって、飛べなくなったんです」

寸一郎は快くわらを渡しました。すると赤トンボは喜んで、胸に付けていた小さな翡翠(ひすい)の玉をお礼にくれました。

「これはとても大切な玉です。困ったときに、これを持っているときっと助けになります」

寸一郎は翡翠の玉を大事に懐にしまい、再び旅を続けました。


■ 翡翠の玉と病の町

次にたどり着いた町では、人々が元気を失い、沈んだ顔をしていました。聞けば、不思議な病が流行り、どんな薬も効かないのだとか。

「それなら、翡翠の玉を試してみてはどうでしょう」と寸一郎が提案すると、町の長老が「ものは試し」と玉を病人の枕元に置きました。

するとどうでしょう。翌朝、病人の顔に赤みがさし、数日後には病が完全に癒えたのです。町の人々は歓喜し、寸一郎に金貨の袋を渡しました。

「これは町を救ってくれたお礼です。どうか受け取ってください」

寸一郎は玉を返してもらうと、感謝の気持ちを込めて金貨を受け取りました。


■ 鬼との遭遇と針の刀

旅を続ける中、寸一郎は森の中で、泣いている小さな女の子と出会いました。

「お兄ちゃん、鬼にお父さんとお母さんがさらわれちゃったの…」

寸一郎は迷わず、鬼の住む洞窟へと向かいました。

そこでは、大きな鬼が二人の大人を縄で縛り、ぐうぐう昼寝をしていました。寸一郎は静かに近づくと、針の刀で縄をチョンチョンと切り、二人をそっと逃がしました。

しかし、背中の翡翠の玉が光を放ち、それに気づいた鬼が目を覚まします。

「こらっ、誰だ!」

寸一郎はとっさに鬼の目に飛びかかり、針の刀で右目をチクリと刺しました。

「うぎゃあああ!」

鬼は目を押さえてのたうちまわり、「もうこんな森には近づかない!」と叫んで逃げていきました。

女の子の家族は涙を流して寸一郎に感謝し、絹織物の反物を贈りました。


■ そして都へ

寸一郎はその絹を都で売り、大金を得ました。そのお金で、小さな家と商いの店を開きました。彼の店は「誠実で気持ちがこもっている」と評判になり、日々お客が絶えませんでした。

やがて、寸一郎の誠実さと知恵が評判となり、都の姫さまの耳にも届きます。

ある日、姫さまが店を訪れ、「どうしてそんなに小さいのに、こんなに大きなことができるのですか」とたずねました。

寸一郎はにっこり笑って答えました。

「わら一本でも、大切にすれば宝になります。小さくても、一歩ずつ進めば、大きな道になります」

その言葉に感銘を受けた姫さまは、寸一郎を都の相談役に任命しました。寸一郎は自分の体の小ささを忘れ、知恵とまごころで多くの人を助けました。

やがて寸一郎は、姫さまと結ばれ、たくさんの人々に愛されながら長い人生を歩みました。

人々は彼のことをこう語り継ぎました。

「小さな体に大きな志、寸一郎はまさに、わら一本から始まった長者さまだった」

そして今日も、小さな子どもたちが夢を抱くとき、寸一郎の物語はそっと背中を押してくれるのでした。

おしまい

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